昆布さんは、昭和54年に、実家の生業行である和紙制作を継ぐことを決意され、その後37年間にわたり地元の自然環境を活かし漆濾紙(吉野紙)の制作を行ってこられました。
漆濾紙は極めて薄い楮(こうぞ)紙でありながら引っ張りに強く、ふっくらとした紙の地合いがろ過に適しているため、江戸時代以来、漆や油を濾す紙として利用されてきました。漆濾紙の制作は、川晒し・チリ切り・紙素炊き・灰汁出し・細打ち・水洗い・紙漉き・板干し・選別までの工程すべてを手作業で行うことから、夫婦が力を合わせ作業を行っておられます。漆濾紙の特徴的な作業は、紙漉前に吉野川での濁出しを行い、純粋な繊維のみとなるように原料処理には手間をかけるところで、さらに吉野の自然水を使用することにより高品質な風合いのある漆濾紙を実現しておられます。
漆濾紙は高品質であるがゆえに文化財の保存に使う漆の漆濾しやお寺の灯明の油濾し等として利用されているほか、美術品やアクセサリーの保護、高感度顕微鏡レンズ磨きや日本刀の手入れの仕上げ等にも利用されています。現在では、ほとんどが機械漉きになり、手作業で漆濾紙を製作しているのは昆布さんのみで、高品質な漆濾紙を作る技法を守り続けておられます。
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